アディシェスを発ったルルーシュたち一行は、一路シェリダンを目指して進んでいった。

アディシェスはラーデシア大陸南部の突き出た半島の付け根にあり、ここからシェリダンに向かうには街道を北上し、メジオラ高原を源流とするメジオラ川を渡らなければならない。この街道はキムラスカの辺境に位置するアディシェスが外部と接する唯一の道であり、通常ならば徒歩でも10日、馬車なら4日もあれば辿り着けただろう。

しかし今は状況が違った。アディシェスはバチカルから食糧配給の停止―――すなわち昨今の世界情勢を鑑みるに事実上の経済封鎖処分を受けた領地である。飢えて死ねと宣告されたに等しいアディシェスの領民が、戦時下はその戦略的重要性からキムラスカ軍の管理下に置かれるシェリダンに逃げ延びるなど、バチカル上層部は許しはしないだろう。わざわざアディシェスを封鎖するため軍を割く余力はないだろうが、前述の通りシェリダンとその周辺は軍の管理下にあり、そこに向かって10台にも及ぶ馬車が列をなして進んでいけば、たちまち見咎められる。そうして捕えられたアディシェスの領民が手厚く保護されると考えるようなおめでたい人間は、誰一人として存在しなかった。

それでも森や林などのように身を隠す物があれば、夜陰に乗じて移動し、昼間は身を隠すことも出来ただろう。しかし荒れ地ばかりが続くラーデシア大陸は、憎らしくなるほどに見晴らしがいい。

そのため彼らが選んだのは、キムラスカ軍に見つかる可能性の高い街道を北上することではなく、メジオラ高原外縁部に敷かれた旧道を進むことだった。

今でこそ枯れて不毛の地となり、魔物の跋扈する場所となったメジオラ高原だが、かつて―――創世歴時代には高い文明を持った国家が存在していたという。都市の跡地などはもはや見る影もないが、それでもメジオラ高原には古代文明の遺産が埋もれており、シェリダンではそれらを発掘し、復元する試みが為されている。2000年近く前に栄えた文明は現代よりもはるかに高度なものであり、この頃に造られた物が頑強なことは疑う余地はない。メジオラ高原に栄えた国家の遺構が残っていないのも、月日に晒され風化したというよりは、戦争か何かで都市が壊滅したからではないだろうか。

ともあれ、その創世歴時代に敷かれた旧道は、一部危険な箇所があるとはいえ、十分に実用に耐えうる強度を維持していた。そしてこの旧道を通ってアディシェス近郊の洞窟から、シェリダンの北西にある岩棚の裂け目まで辿り着けることも確認されている。

だからこそ彼らはキムラスカ軍の目を割け旧道を進むことを決断したわけだが、これもまた十分に危険な賭けだった。メジオラ高原には多数の魔物が棲息しているからである。

旅慣れた、熟練の冒険者なら魔物を退け進むことも出来るが、彼らアディシェスの一団はほとんどが子供ばかりだった。もちろん引率役の大人も同行しているが、戦える男たちのほとんどがマルクトとの戦争に出てしまった以上、残ったのは非力な女たちばかりである。戦う術のある者もいないではなかったが、その数は片手で足りるほどだろう。200人にも及ぶ一行を守り切るには到底足りなかった。魔物が嫌う臭いを発する香草を焚きながら進んではいたものの、これは祝福された力で魔物を退けるホーリーボトルとは違い、魔物の種類によっては効きづらい場合もある。いつ、魔物が現れるかわかったものではない。

またこの頃になれば、年嵩の子供たちの多くが『シェリダンへの避難』に疑問を覚え始めていた。母親の言葉を額面通りに受け取っていたものの、さすがにおかしすぎると気付いたのだろう。そして彼らの不安は年少の子供たちへと伝播し―――癇癪を起こして泣きだす子供、苛立って周囲に当たり騒ぎを起こす子供も出始めている。

少ない食料と水、子供たちには過酷すぎる強行軍、いつ現れるとも限らない魔物の恐怖―――彼らの疲労と緊張は、早くも極限へ達しようとしていた。

 

 

 

 シェリダンを発って6日目の昼過ぎ。ルルーシュたち一行はメジオラ川の上流に掛けられた橋梁部分へと差しかかっていた。

 メジオラ川はメジオラ高原を南北に分断しており、その両断面はあたかも大地を裂いたような深い亀裂となっている。メジオラ川はその谷底を流れており、地上からは水面を眺めることすらままならない。当然、橋の支柱が川底にまで届くはずもなく、掛けれられた橋は吊り橋のような構造になっていた。いくら創世歴時代に造られた頑丈な橋とはいえ10台以上の馬車が一斉に渡り始めればその負荷は尋常なものではなく、馬車は一台一台、慎重に向こう岸へと渡っていく。

 その内の一つ、二番目に渡り終えた馬車の荷台から、ルルーシュはじっと後方を眺めていた。

「ね、ルルーシュ君。メジオラ川を渡ったってことは、これで大体三分の一くらいなのかな?」

 同じ馬車に乗り込んでいたニーナが、手元の―――祖父の持っていた本に載っている世界地図を見ながら、傍らのルルーシュに問う。

「直線で考えればそうだろうな。実際は岩棚に沿って道が延びているから、一概にそうとも言えないが」

 周りの子供たちが疲労で寝ているのを幸いと、ルルーシュは素のままの口調でそう返した。ニーナは膝を抱え、そっか、と小さく呟く。

「………まだ、長いね」

「………そうだな」

 少なからず疲労の見え始めたニーナの言葉に、ルルーシュも頷いた。

 生前―――かつての世界で戦争を経験し、身体の不自由な妹を背負って戦後の荒廃した日本を彷徨った経験のあるルルーシュだが、如何せん今の身体はその時の物ではない。精神的には耐性がついていても、現実には8歳の子供に過ぎない身体は、着実に疲労を溜めている。食料の不足に加え、飲み水にも不自由し、乾燥した荒れ地を進んでいることも大きいだろう。それに移動中はひたすら馬車で座っているか寝ているかしかないため、腰や背中が鈍く痛む。

「………、」

 この先の道のりを思ってため息をついたルルーシュは、体力の温存に努めるため自分も眠っておくべきかと判断し、もぞもぞと身じろいだ。そもそも移動中ではニーナと雑談するくらいしかやることがないのだ。悠長に本を読んでいては、周囲の気が立った子供たちから八つあたりをされる可能性があるし、それ以前に彼らの乗っている馬車の足回りはクッション性などないに等しく、乗り心地はお世辞にもいいとは言えない。道の悪さも手伝って、酷く揺れるのである。こんな中で本など読もうものなら、たちまち悪酔いするだろう。

そう考えて周囲の子供たちを見渡したルルーシュは、ふと視界を過ぎった影に眉を顰めた。

「………何だ?」

 馬車の荷台を覆う天幕の合間―――そこに視線を巡らせたルルーシュは、次の瞬間目を見開いた。

「な………ッ! あれは!?」

 荷台から身を乗り出すようにしたルルーシュに釣られ、ニーナも身を起こした。そして後方へと視線を向け、思わず悲鳴を上げる。

「どうしたね?」

 孫たちの様子に気づいたウィリアムズ老―――ルルーシュとニーナの保護者的な役割となっている―――が問いかけるのに、ルルーシュは後方を指差して叫んだ。

「先生! あれを―――魔物が!」

「な、何じゃと!?」

 慌てて身を乗り出したウィリアムズ老は、川の向こう岸―――半分以上の馬車がまだ渡り終えていない向こう岸で、巨大な一頭の魔物が馬車へ向かって疾走して来るのを見た。遠目にもわかるほどの巨躯は、馬車の三分の二程の大きさだろうか?

「いかん、このままでは――――!」

 ウィリアムズ老は後方の馬車に警告を出すべく動こうとするが、それより早く最後尾の馬車へと辿り着いた巨大な魔物が、太い前足で馬車の荷台を押し潰す。

 ぐしゃりと潰れた馬車を踏み台に、魔物は次々と先を行く馬車へと襲いかかっていった。強靭な後ろ足で蹴り飛ばされた馬車が、道を外れて崖を転がり落ちていくのが見える。―――あれではとても、中にいる者たちは助からないだろう。道はメジオラ高原の外縁を覆う岩棚に沿って造られており、すぐ脇は崖になっている。崖下までの距離は優に20メートルはあるだろう。

 魔物の突然の襲撃とその凶行に、彼らは恐慌状態に陥った。前述の通り戦える者など数えるほどしかいなかったし、その彼らにしてもこんな巨大な魔物と戦うことなど想定していなかった。皆がただただ悲鳴を上げて、逃げまどうことしかできない。

魔物は人や積み荷に興味を示すことはなく、ただひたすらに馬車を蹴散らし、踏み潰していった。人を食らうためではないのなら、あるいは縄張りを荒らされたことへの怒りに駆られているのかもしれない。

(く………ッ!)

 舌打ちしたルルーシュは、馬車の荷台から飛び降りた。着地時に危うく転びそうになったが、何とか踏みとどまると、そのまま走りだす。

「ルルーシュ君!?」

「ルルーシュ! 戻りなさい!!」

 背後から呼び止める声を振り切って、ルルーシュは馬車の後方へ向けて走る。

(どうする………?)

確実な方策があったわけではなかった。この世界にはKMFなどという物はないし、ギアスだって―――もっともギアスは人間にしか効かないが―――ない。部下もなく、またルルーシュ自身にもなんの力もない。馬車の中で蹲っていた方が、まだ助かる可能性は高いかもしれない。

(だが、谷底につき落とすことができれば………!)

 魔物といえど、垂直に切り立った崖を上ってくることは、さすがに羽根でも生えていなければ不可能だろう。そしてお誂え向きに、魔物は馬車を蹴散らしながら吊り橋へ向かっていた。ここから何とかして付き落として、あるいは吊り橋を落として―――そうすれば、橋を渡りきった者たちだけでも助かることはできる。どの道橋の向こう側の馬車は崖下へと蹴り落とされており、助けられる見込みはないのだから、せめて残った者だけでも無事生き延びねば、死を覚悟して残った者たちが報われない。―――何より、ルルーシュは生きることを諦めるつもりはさらさらなかった。

(『譜術』―――ぶっつけ本番で行けるか? 出来れば足止め役の一人でも欲しいところだが)

 いずれ元の世界に戻る術を探すため、オールドラントを旅することになるかもしれないと、ルルーシュは漠然と考えていた。アディシェスはオールドラントでも辺境にあり、得られる情報も知識も限られている。シェリダンか、あるいは多くの研究施設が集中するというベルケンド辺りに留学し、結果如何では旅に出て―――そんなことを考えてもいた。

 そしてかつてと違い、魔物や盗賊が街の外では幅を利かせるこの世界で、身を守る術も持たずに旅をするなど自殺行為に近い。都市間を行き来する商人たちも、よほど近場か、資金繰りに困窮しているのでもなければ、護衛の一人も付けるのが普通である。

 ルルーシュは、自分が武術や剣術に適性がないことは嫌というほど悟っていた。そしてこの世界には、自身の肉体に頼らず敵を撃退する術がある。

 それが譜術であった。譜業の武器なども考えなくはなかったが、使い捨てや回数制限のある物も多く、コストに見合った効果はないように、ルルーシュの目には映っていた。何より高いし、手に入りにくい。

 幸い譜術の素養はあったらしく、書物を読んだだけの独学ではあったが、『音素の流れ』というものを読み取れるようになっていた。密かに訓練を始めたのがつい最近のため、実際に術を発動してみたことは一度もなく、正直それが最大の不安要素ではある。

(! あれか………!)

 辿り着いた橋の袂では、数少ない戦闘要員である大人たちが巨大な魔物を相手に決死の奮闘をしていた。しかし元々片手で足りるほどしかいなかった彼らのうち、既にほとんどが息絶え、あるいは瀕死の重傷を負って倒れ伏している。

 辛うじて戦いを続けていたのは、ルルーシュよりもわずかに年長の少女と、死神のような大鎌を振りまわす、熊に似た巨漢の男だけだ。

「ジョゼット! 前に出過ぎだ!!」

「すっ、すまない!」

 鍛錬を積んでいたとはいえ実戦経験に乏しく、また結局は非力な11歳の少女に過ぎないジョゼットは、男の叱責に慌てて飛びのいた。後衛に戻った彼女は肩で息をしており、明らかに疲労困憊という有り様である。一方の大男の方は、魔物の行く手を塞ぐように立ちはだかり、油断なく牽制し続けたままだ。

(ジョゼットと、それに………あの男は確か、1年ほど前に住みついた流れの傭兵か)

 アディシェスはさほど大きな街ではないが、それでもルルーシュが全住民知っているなどということはもちろんない。しかし大鎌を構えた大男は明らかに長閑なアディシェスに不似合いであり、少しばかり噂になっていたため、ルルーシュでも知っていた。又従姉のジョゼットについては言うまでもない。

 素早く状況を見て取ったルルーシュは、次いで薄らと唇を吊り上げた。彼らと魔物の交戦によって、吊り橋の一部は既に損傷していたのである。あと一ヶ所ワイヤーを断ち切れば、橋の踏み板が外れるだろう。そこに魔物を巻き込めれば、魔物を谷底につき落とすことができる。

(ワイヤーは強度がわからんな。それより大本を崩した方が早いか? だが、2000年近くも持ちこたえた物となると、多少の事では傷つかんかもしれんし)

 創世歴時代の遺物は現代とは全く違う高度な技術に支えられており、発掘された遺物の中には、材質すら解析できない物があるという。下手をしたら傷一つつかない可能性もある。

(だったら、足元を狙った方がいいか。踏み板はそうでもないようだしな)

 先ほどから魔物の傷や男の振るう大鎌で、踏み板には傷やヒビが入り始めていた。そこを狙えば何とかなるかもしれない。

 為すべきことの算段を付けると、ルルーシュは男の背後へと回りこんだ。そこでようやく新たな闖入者に気がついたジョゼットが、目を見開いて叫ぶ。

「! ルルーシュ!? 何をしに来たの!!」

 同じくルルーシュの存在に気がついた大男が、苛立たしげに叫ぶ。

「小僧! 子供の来る場所ではない。下がっていろ!!」

 ルルーシュは明らかにジョゼット以上に非力な子供だったし、武器一つ手にしている様子もない。男の言うことはもっともなことで、苛立つ気持ちもわからないでもなかったが、ここで悠長に問答している暇もなさそうだった。獲物―――あるいは縄張りを荒らした敵である彼ら一行の抵抗に苛立ったのか、魔物の様子が一層凶暴になりつつあるのだ。今でさえギリギリで持ちこたえているのだから、これ以上の凶暴化など御免被りたい。

「説明は後だ! 橋を落とす。援護してくれ!!」

 8歳の子供らしい猫かぶりも投げ捨てて、ルルーシュは叫んだ。男は『小僧』の年に似合わぬ口調に怪訝そうな顔をしたが、腕前に比例して実戦経験も豊富らしく、多くを問うことなく魔物へと意識を戻した。戸惑うジョゼットを振り切り男の背後まで移動したルルーシュに、彼は手短に問いかける。

「俺は何をすればいい? 足止めか?」

「ああ。俺が譜術で足元の板を砕く。………巻き込まれるなよ」

「譜術だと!? ………小僧、その年で使えるのか?」

 10歳にも満たない年齢で譜術を使える者などほとんどいない。厳密には、そのくらいの年で譜術を学びだす者が滅多にいないという方が正しいだろう。真っ当な大人ならばそんな年齢の子供に術を教えたりはしないし、さりとて書物を読んで独学で学ぼうにも、初級とはいえ譜術書の類は子供には難解すぎる。早い者でもせいぜい10代前半くらいだろう。

 そんな男の当然とも言える疑問に、ルルーシュは肩を竦めて言い放った。

「さあな。使ってみるのはこれが初めてだ」

 男は一瞬絶句した後、顔を真っ赤にして怒鳴り返す。

「ふざけているのか!? こちらは子供の遊びにつき合っている場合では………!!」

「遊び? いいや、違うな」

 男の言葉を遮って、ルルーシュは鼻で笑う。

「出来る、出来ないの話じゃない。―――やるか、やらないかだ」

「………!」

 男はわずかに驚いたように目を見開いた。しかしルルーシュはそれ以上男に構うことはなく、目を閉じて詠唱―――いや、集中に入った。それを見て、男もこれ以上の問答を仕掛けることはなく、目の前の魔物へと集中する。現実的に考えて、今のままではジリ貧なのだ。一か八かの賭けとはいえ、乗るだけの価値はある。

第一()第二()………第五()第六()

 世界の構成物質たる音素(フォニム)をルルーシュはイメージする。

経験を積んだ譜術士ならば詠唱だけで術の効果を発揮できることだろうが、生憎ルルーシュは一人前どころか卵の中身に等しい状況である。卵の殻を割るにも、相応の手間が掛かるものだ。

「あ………」

 離れた場所で二人のやり取りを見守っていたジョゼットが、茫然と声を漏らした。ルルーシュの集中に呼応するかのように、ゆっくりと周囲の空気が変わっていく。風もないのに髪が揺れ、ルルーシュの周囲に薄赤い光が集まっていく。それは譜術など縁も所縁もなかったジョゼットにすらはっきりと見えるほどだった。

「………」

 自身の周囲に音素の流れた生じたことを感じ取り、ルルーシュはゆっくりと右手を上げた。無意識に―――かつてのように左目の瞼をなぞったまま、ルルーシュは『力ある言葉』を紡ぐ。

「終わりの安らぎを与えよ。―――フレイムバースト!!」

 降り上げた右手と共に、高らかな声音が響く。

 次の瞬間、魔物の足元で火炎が炸裂した。大鎌の男に足止めされていたせいでまともに食らった魔物だが、致命傷には程遠いようで、一層苛立たしげに頭を振って地団太を踏むように足を踏みならした。―――譜術の爆炎で衝撃を受けていた踏み板に、ピシリと亀裂が入る。

「! 踏み板にヒビが………小僧、もう一発行けるか!?」

 男の問いに、ルルーシュは顎を逸らして笑う。

「ふん、誰に言っている? 俺は不可能を可能にする男だ!」

 傲然とそう言いきると、再びルルーシュは詠唱に入った。周囲に舞い踊る音素たちが、ルルーシュの意志に従い形を為す。

「終わりの安らぎを与えよ―――フレイムバースト!!」

 再び放たれた譜術が、魔物の足元を焼いた。それを唇を吊り上げて見守ったルルーシュは、二度の譜術で焼け焦げ罅割れ始めた踏み板の辺りに、視認できるほどに濃い第五音素の流れがあることに気づく。

(あれは………確かフィールド・オブ・フォムニス、だったか? 同系統の術を使い続けると、フィールドに音素が蓄積されるという。この状態で別種の術を使った場合、稀に音素同士の干渉が起こって全く別の術へと発展するらしいが………)

 面白い―――幼い美貌を魔的な喜悦の表情に染め上げ、ルルーシュは笑った。C.C.あたりならその悪人面に突っ込んでくれたかもしれないが、生憎彼女の行方を杳として知れない。譜術初心者とは思えない中級譜術の連発に呆気に取られた大男と、展開についていけずに呆然とするジョゼットがいるだけだ。

(ふむ。第五音素………火属性か。だったら土、いや、風か?)

 そして歯止めがないために勢いに乗ったルルーシュは、記憶をさらって、先日から読みあさった譜術書を思い浮かべ、更なる譜術の詠唱を始めた。―――自身の振るう譜術が年齢に、そして初心者という状況にそぐわないレベルであることも、この時のルルーシュの意識には欠片も存在しない。

「炎帝の怒りを受けよ。吹き荒べ業火! ―――フレアトーネード!!」

 ルルーシュの唱えた風の譜術が、蓄積された火の音素と干渉し合い、火炎を纏った竜巻を巻き起こす。

「うおっ!?」

 眼前で爆発的に立ち上った火炎に驚いて飛び退った大男は、全身を火達磨にされた魔物が悶え苦しむのを目の当たりにして息を呑んだ。彼らが見守る中、狭い吊り橋で転げ回った巨大な魔物は、踏み板から足を踏み外し、真っ逆さまに崖下へと堕ちていく。

「ふっ………く、ふはははははははははは!」

 幼い声で紡がれる哄笑が、渓谷を通り抜ける乾いた風に乗って、高らかに響き渡っていった。

 




Darkest before the dawn

転機・3


 

※※※



魔王様降臨の話。………うん、色々すみません(爆)。

多分なんだかんだいってストレスとか鬱憤とか溜まってたんですよルルーシュも。なので魔王様モードのスイッチが入ってしまったらしいです。でも外見8歳なので想像すると結構微妙。高笑いももちろんですけど、後半の台詞の数々を8歳児で想像すると、微笑ましいというか、戦隊物ごっこするような絵面になりそうです(笑)。
あと作中でルルーシュが使ってる譜術、フレイムバースト(中級)x2、タービュランス(中級)がFOF技でフレアトーネードに変化、という感じです。↑でもちょこっと触れましたが、初めて譜術を発動した初心者の使える術ではないですよね。本は読んでて詠唱知ってた設定ですが、普通は発動できないんじゃないかと思います。一応これには裏設定があって、転生理由(というか転生した時の状況?)とも絡んでるのですが、正直本筋には関係のない設定でもあるんですよね………。あってもなくてもあんまり関係ない。まあ、多分C様登場時についでのように語られるのではないかと。
まあ別に下級譜術でもよかったんですけど、アビスの譜術で下級ってエナジーブラストしかなかったんですよ。威力が弱すぎてちょっと使えないし、属性もないからFOFもできないし………ということで、中級譜術を連発させてしまいました。でもこれTPが22x2+15=59なので(ちなみにジェイドのレベル1時のTPが設定上60だとか)、ニーナとかが駆けつけてきた時にはTP不足&高笑いのため酸欠になって、へろへろしてると思います(笑)。


でもって↑で出てきた熊のような大男、アビスプレイ済みの方はわかると思いますけど、若かりし頃のラルゴです。あれはほんと獅子とか言うより熊だと思うんだ………。
で、彼がメリル(=ナタリア)を奪われたのが18年前、ホド戦争が16年前なので、現時点ですり替え事件の2年後になります。どうも神託の盾騎士団に入ったのがヴァンと会ってかららしいので(攻略本参照)、多分それまではやさぐれながら放浪してたのかな―と。で、その途中でアディシェスに辿り着き、なんやかやと世話を焼いてもらって、一宿一飯の恩でもないけど、シェリダンへの逃避行の護衛についてくれたということで。




…………ちなみに白状すると、ここでラルゴが出てくる予定はこれっぽっちもありませんでした本当は。名前のある真っ当な戦闘要員(特に前衛)が11歳のジョゼットさんだけでは、どうしても流れ的に詰んじゃうんですよ………。
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