―――どういうことだ?

 

 フレイヤの一撃で肉体を失い、精神だけとなってCの世界に戻ってきたC.C.は、呆然と呟いた。

 コードを得、Cの世界に接触できるようになって数百年―――かつて見たことのない情景が、彼女の眼前に広がっている。

 まるで嵐の最中の如く荒れ狂う空間。この世界に慣れていたはずのC.C.ですら、吹き飛ばされそうなほどだ。

 

 ―――ルルーシュはどこだ?

 

 C.C.は険しい顔で周囲を見渡し、嵐の中を泳ぐように走り出した。

 ほんの少し前にフレイヤによって落命し、Cの世界に呑まれたはずのルルーシュ。通常の人間ならばすぐに周囲と同化していくだろうが、ギアスを所持し、またCの世界にギアスを掛けたほどの自我を持つ人間が、容易く意識を手放すはずがない。ましてルルーシュはC.C.の契約者であり、彼女とルルーシュの間には別ち難い絆がある。

 

 ―――ルルーシュ!!

 

 遠く、かすかに気配を感じる。C.C.は風を、波を掻き分けるようにして走った。―――その『波』の中にはC.C.の見知った顔もあった。遠い昔に契約を交わした者が、マオが、まるで彼女を絡めとろうとするかのように手を伸ばす。

それを振り払ってすら、C.C.は走った。

情が、罪悪感がなかったわけではない。

けれどそれに足を止めてしまえばルルーシュを見失ってしまうと、彼女は理屈ではなく確信していた。

 

 ―――見つけた………ルルーシュ!!

 

Cの世界で最も強い輝きを放つ精神。そこに辿り着いたC.C.は、思わず息を呑んだ。

ルルーシュの精神は今は眠っているかのようだった。風に抗うこともなく、ただ流れに身を任せている。その周囲にまるで付き従うように、あるいは守るようにいくつかの光が寄り添っていたが、それはC.C.にとって重要なことではない。

問題なのはルルーシュの精神が流れゆく先―――おそらくはCの世界を荒らし、破壊する激流の原因がそこにあるということだ。

空間にぽっかりと穿たれた巨大な裂け目。世界が歪み、押しつぶされ、また広げられて、ついに負荷に耐え切れず内側から引き攣れたような傷跡だった。その裂け目の向こう側に何が広がるのかは、C.C.にもわからない。

その裂け目へと、今まさにルルーシュが飲み込まれようとしている。

 

 ―――駄目だ! 行くな!!

 

 必死に伸ばした彼女の手は、またしても届かなかった。

 また、失くしてしまう?

 先ほど味わったばかりの喪失を思い出し、C.C.はきつく唇を噛む。

このままではルルーシュの精神、この先―――いつか魂が巡った先にあったかもしれない未来まで、何もかもが失われてしまう。それを許せない、認められないと感じる程、C.C.は既にルルーシュに執着を抱いていた。

 

―――………

 

だから裂け目へと辿り着いたC.C.は、開けた暗闇に向かって両手を伸ばす。

そうして彼女の姿もまた、Cの世界から消え去った。

 

 




Darkest before the dawn

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